被写界深度と焦点深度


 レンズはピントを合わせた位置に正しくピントが合うものであるが、ピントを合わせた位置の前後、ある範囲内ではボケの量は小さく、実用上ピントは正しくあっているとすることができる。実用上ピントが正しく合っているとすることができるボケの大きさのことを許容錯乱円という。
 ボケが許容錯乱円より小さくなる様な、フィルム上(像面側)の前後の範囲を焦点深度と呼ぶ。焦点深度内の像を作る被写体側(物面側)の範囲を被写界深度と呼ぶ。すなわち、被写界深度とは、ピントを合わせた位置の前後で実用上ピントが合っているとみなせる範囲のことであり、焦点深度とは、被写界深度をフィルム側に置き換えたものである。被写界深度の中にあるものは、すべてピントが合っているように写るわけである。なお、被写界深度のうち、ピントを合わせた位置の後側を後方被写界深度、ピントを合わせた位置の前側を前方被写界深度と呼ぶ。

 一般に被写界深度には次の性質がある。
  1) F値が大きいほど被写界深度は深く(大きく)なる。
  2) 焦点距離が長いと被写界深度は浅く(小さく)なる。
  3) 被写体が近くにあると被写界深度は浅く(小さく)なる。

 被写界深度は次式で求められる。



ピントのあっている範囲は L-Lf から L+Lr までになる。


 次に、 L∞ を次の式で定義する。

 ピントを∞の位置にすると、 L∞ の位置から先にピントが合う。
 逆に、ピントを L∞ の位置に合わせると、L∞÷2の位置から、∞までピントが合う。

 さて、許容錯乱円δはいくつであるかが問題である。これは、フィルムサイズと引き伸ばしのサイズによって変わってくるもので、さらには、撮影者がどれだけシャープな画像を求めているかによって変わってくるものである。フイルムの銀粒子の直径が0.03mm〜0.035mm程度なので、許容錯乱円δは0.03mm〜0.035mm程度の値を使用することが多い。また、35mm フィルムで六切りに引き伸ばし、充分にシャープな画像が欲しい場合は、δ=0.03mm 程度が適当である。。四切りだと、もう少し小さい方が良いかもしれない。
 以上のことから、例えば50mmF8で撮影する時は、ピント位置を10mにすると、無限大までピントが合うことになる。


許容錯乱円

 レンズには、被写界深度目盛が付けられているものが多い。(コンパクトズームなど、安価なレンズでは省略されていることもある。)
 無限大の被写界深度を求める式を変形すると、次式が得られる。



 この式を使うと、レンズの被写界深度目盛から、そのレンズ設計における許容錯乱円の大きさを知ることができる。幾つかのレンズで、被写界深度目盛から求めた許容錯乱円の大きさを示す。
 古い設計のレンズでは0.04mm〜0.05mmが使用され、その後は、0.03mm程度になっていることが分かる。
 
 一眼レフカメラでも、デジタルカメラが一般的になると、撮った写真を画面上で拡大してチェックするようになった。このため、これまでの描写性能を超えた鮮鋭な写真が求められるようになり、現在では、設計上の許容錯乱円は、更に小さくなっている。

レンズ名 焦点距離 開放F値 最小F値 最小F値でのf∞ 許容錯乱円 備考 参考写真
(写真をクリックすると拡大します)
カールツアイス
ゾナー
50mm     2.0 F22 7.6フィート
(2.3m)
0.05mm 1930年代製造
RF用
カールツアイス
トリオタール
200mm   4.0 F22 20m 0.04mm 1930年代製造
RF用、SLR用
  
ROMZ
Jupiter-12
35mm   2.8 F22 1.3m 0.04mm ゾナーと同様な光学系
RF用
 
ZOMZ
Jupiter-3
50mm   1.5 F22 2.9m 0.04mm ゾナーと同様な光学系
RF用
   


KMZ
Jupiter-8
50mm   2.0 F22 2.9m 0.04mm ゾナーと同様な光学系
RF用
KMZ
Jupiter-9
85mm   2.0 F22 8m 0.04mm ゾナーと同様な光学系
RF用、SLR用
KMZ
Orion
28mm   6.0 F22 F16で1.7m 0.03mm RF用 
KMZ
Mir-20M
20mm 3.5 F16 0.85m 0.03mm SLR用
ZMOZ
Mir-1
37mm  2.8 F16 1.8m 0.05mm SLR用  
KMZ
MC Zenitar M2s
50mm 2.0 F16 2.8m 0.05mm SLR用
Belomo
Helios-44-3
58mm 2.0 F16 4.5m 0.045mm ビオターと同様な光学系
SLR用
 
KMZ
TELEMAR-22
200mm 5.6 F22 36m 0.05mm SLR用   
KMZ
Jupiter-21M
200mm 4.0 F22 36m 0.05mm SLR用
  
LOMO
Volna
50mm 1.8 F22 5m 0.02mm SLR用
Arsenal(KIEV)
MIR-24N
35mm 2.0 F22 2m 0.03mm SLR用
Arsenal(KIEV)
Gelios-81N
50mm 2.0 F16 6m 0.025mm SLR用
Arsenal(KIEV)
ARSAT-N
50mm 2.0 F16 6m 0.025mm SLR用
Arsenal(KIEV)
Kaleinar-5N
100mm 2.8 F22 15m 0.03mm SLR用
PENTAX-M 50mm 1.7 F22 3m 0.04mm SLR用
PENTAX Super-Multi-Coated TAKUMAR 55mm 1.8 F16 5m 0.04mm SLR用
SMC PENTAX-M 50mm 1.4 F22 3m 0.04mm SLR用
SMC PENTAX   28mm 3.5 F16 1.5m 0.03mm SLR用
OLYMPUS  F.ZUIKO AUTO-S 50mm 1.8 F16 5m 0.03mm SLR用
Nikon   NIKKOR-H AUTO 50mm 1.2 F16 5m 0.03mm SLR用
キヤノン
EF
85mm 2.0 F22 10m程度 0.03mm 距離目盛が見づらい
SLR用
キヤノン
EF
200mm 2.0 F32 50m程度 0.02mm
〜0.03mm
距離目盛が見づらい
SLR用

注)SLR用:レンジファインダーカメラ用  SLR用:一眼レフカメラ用


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