レンジファインダーカメラFED-2


 FED-2はウクライナ、ハリコフのFED工場で1955年〜70年に作られた、ソビエト連邦カメラの中で、最も有名なカメラである。
(プロットタイプは1952年〜54年に作られている。)
 FED-1に比べ、次の2点が改良されており、使い勝手は格段に良くなった。
  1)ファインダーが一眼式になった。
  2)フィルムの装填が、底蓋着脱式から底蓋裏蓋一体着脱式になった。

 さて、FED2はどんな時代に作られたのだろう。

 スターリンが1953年に死亡すると、フルシチョフの時代になった。そして、これは1964年に失脚するまで続いている。1964年以降は、ブレジネフ時代である。すなわち、FED2はフルシチョフのスターリン批判の中で製造が始まり、その後ずっとブレジネフ時代に至るも製造されたわけである。
 スターリンの時代、ソ連は常に外国の侵略の脅威にさらされていた。経済はもとより、軍事的にも米国に大幅に後れを取っており、スターリンは常に外国の侵略におびえていたわけである。(後年フルシチョフはそのように証言している。)ところが、フルシチョフの時代になると、経済では大きく遅れていたが、軍事的には遅れを取り戻しつつあった。特に、1957年人工衛星スプートニクの成功、1961年ガガーリンによる有人宇宙飛行の成功は、考え様によっては、軍事的に米国に対して優位に立ったわけであるので、この変わりようは非常に大きい。

 そういった時代背景で見ると、FED1がライカの完全な模倣であるのに対して、FED2になると、機能的にも外観も独自色が伺え、設計者の西側に対する自信の程が垣間見られる。デザイン的な評価はともかく、機能的には、かなり向上しており、とくにレンジファインダーの有効基線長を長く取っているため、ピント合わせ精度の向上になっている。単にライカの模倣から、独自の発展へと、一歩踏み出していることが分かる。
 しかし、その後のFED2の発展は、シンクロ接点が加わり、セルフタイマーが加わりと、ありきたりである。さらに、FED3になると、今度は、レンジファインダーの有効基線長が短くなってしまい、また外観も単なる四角い箱のようになってしまった。独自の発展ではなく、製造の簡便さのほうに設計思想が移っている。
 「ノルマ」と言う言葉をご存知だろうか。元々は、ソ連で労働の基準に使われた言葉である。現在では日本でも普通に使われるほどポピュラーになっている。ソ連時代、労働の成果は単にノルマの達成によって計られた。小麦だと、生産何トンと言った具合であり、カメラだと製造台数何台といった具合である。このため、製造台数を上げるための処置がなされたわけで、これが、FED2以降の変遷に決定的役割を演じているのである。
 翻って、日本のカメラを見ると、本当はどうでも良いような不必要な機能を加えて、そのために価格の上昇を図っている節がある。これに対して、製造台数重視のソ連のやり方は、多くの人に安価なカメラを入手する機会を与えたという点で評価できる。物不足の時代には妥当な方策であった。すなわち、まじめに働いていさえすれば、必ず幸せになると。しかし、社会が豊かになって来ると、このような製造台数重視のやり方では、経済の停滞を招いてしまい、これが結局は国民の離反につながって行く。ブレジネフ時代末期にはこの傾向が顕著であった。

 話が、FED2からそれてしまった。FED2は安価に大量に製造されたカメラであるため、現在容易に安価で入手できるため、お使いの方も多いと思う。ちょっと試に使ってみる場合、気楽に持ち歩く場合、あるいはメカニズムを知るために分解してみる場合など、写真を撮る目的や、カメラを知る目的には最適である。ライカをこのように使うことは、なかなかできないだろう。ここが、社会主義ソビエト連邦のFEDと、資本主義西ドイツのLeicaの違いである。私の知っている初老の方に、ライカを持っているのに、自分でフィルムの出し入れができない方がいる。1本撮るのに半年ぐらいかかって、1本写真を撮り終わったらカメラごとDPEに持って行き、そこでフィルムの出し入れをしてもらうそうである。写真を撮るためと言うより、ライカを持ちたくて持っていると言う雰囲気である。ライカだからこのような人がいるけれど、FEDでこのようにする人はいないだろう。FED2とライカの違いは正に社会主義と資本主義の対比である。


FED-2のタイプ分類

FED-2は通常Type-aからeに分けられる。

Type シンクロ セルフタイマー シャッター速度 巻き上げ
a なし なし ダイヤル
b あり なし ダイヤル
c あり あり ダイヤル
d あり あり ダイヤル
e あり あり レバー

・シャッター速度  旧系列:B、1/25-1/500
・シャッター速度  新系列:B、1/30-1/500
・巻上げとは、フィルム巻上げ方式のこと。Type eのみ巻き上げ方式が異なるが、カメラの外観も、このタイプのみ、直方体形状である。Type eはFED-3から、低速シャッターをのぞいたFED-3の廉価バージョンである。
・Type-bとType-c以降とでは、シャッター巻上げダイヤルの形、シンクロ接点の位置が異なっている。ただし、Type-bの後期のものは、Type-cと同じ形のシャッター巻上げダイヤル、シンクロ接点の位置になっている。
・Type-aの天板には、たいていジェルジンスキーの名前が彫りこまれている。
・Type-aに先立って、プロットタイプが製造された。


FED-2の表面加工

 FED-2の表面は非常に硬いので、金属を直接シボ加工していると思われている事があるが、実際はFED-1と同様、合成ゴム状物質が塗布されている。
 FED-1の表面加工については、こちらをクリックください。


FED-2のボディーカラー

 FED-2のボディーのカラーは黒の他に、青、緑、赤、茶と言われているものがある。実際は、群青色、深緑色、赤茶色、こげ茶色である。存在数は 黒、青、緑、赤、茶 の順だが、やはり黒が圧倒的に多い。



Fed2 Type-B ボディーカラーは通常 Red と呼ばれるが、赤茶色です。


Fed2 Type-B ボディーカラーは通常 Blue と呼ばれるが、群青色です。

Fed2 Type-B これは、タイプBからCへの過渡期であるが、セルフタイマーがないのでType-Bに分類される。なお、付いているレンズはFEDのものではない。


Fed2 Type-C ボディーカラーは通常 Blue と呼ばれるが、群青色です。


Fed2 Type-D ボディーカラーは黒です。
このカメラは、キリル・ラテン文字併記であるが、キリル文字のみのものもある。

説明
  マウント:M39(ライカLマウント)
  シャッター:横走布幕
  シャッター速度:B,1/25〜1/500 または B,1/30〜1/500
  ファインダー:1眼式2重像合致距離計連動
  露出計:なし
  フィルム装填:裏蓋底蓋一体着脱式
  フィルムカウンター:順算式(自動復帰機能付)
  シンクロ接点:X-接点(Type aにはない)
  付属レンズ:INDUSTAR-26M(5cm F2.8) 
          INDUSTAR−61(52mm F2.8)
 


付属品
  カメラケース:通常、茶色革製


撮影例:2001年の冬、伊香保・榛名で撮りました。


ファインダー調整方法
 
 丸窓ライカタイプのファインダー調整は容易です。Zorki-2Cと同じなので、そちらを参照ください。(一眼式と二眼式の違いはあるけれど、基本的には変わりません。)



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